
渡辺ゆん太
母と子というのは難しいもので、親しいようでいてどこか触れにくいところが
あったり、親しいからこそ自分の勝手な思い込みを互いに押し付けてしまったり
する。大学に入ってからというもの、なかなか落ち着いて話をしたり、意見を交
換する機会が母と持てないでいた。そのことで、話が合わず、仲がこじれそうに
なったこともあった。そんなとき、今回のラーメン評論があった。
世の中にはいろんなラーメンがある。インスタントラーメンもまたしかりだ。
私が小さかったころは、よく母と旅行をし、世界各地を歩き回ったものだった。
今では母も落ち着いたのか、そうした旅行に連れていってくれることも少なくな
った。けれども、旅はどこにいても体験できる。それを知ったのが、母との「ラ
ーメン旅行」であった。
デパートに行き、無作為に選んだ麺たち。それは気づけば、大きな広がりを持
っていた。
「北海道スパイシースープカレーラーメン」。不思議な麺の名前につられて買っ
た。「熊本ラーメン」。今度は日本を飛んで、韓国の「チゲラーメン」。昔から
ある定番「チキンラーメン」、「エースコックワンタンメン」。日本列島を横断
し、お隣の韓国へも渡る。味覚を通じて、旅をする。母と、久しぶりの味旅行だ。
二人でチキンラーメンを食べながら、あれこれ話した。「昔、お母さんのずっ
とちいさかったころは、ラーメンなんてほとんどなかったなあ。なつかしい味が
するよね。お母さんこどものころ食べてた。おやつに食べてたねえ。」といって、
ビールを注いでくれた。母とこんな話をしながら食事をしたのは、本当にいつだ
ったのか忘れてしまうほど、久しぶりだった。
「北海道スパイシースープカレーラーメン」。どこか不思議な味がして、行っ
たことのない場所の、行ったことのないお店に、迷い込んだようだった。「ちょ
っと粉っぽいかなあ」と母。大きくなった子と、ひととおりの子育てを成し遂げ
た母との会話は、ちょっぴり粉っぽくて、スパイスがほんのり香るものなのかも
しれない。
「チゲラーメン」。これはダシが聞いていて、麺にもコシがあっておいしい。
「うん、おいしい」、とボソッとつぶやく私。ピリっと辛味もきいて、ビールを
ぐいっと飲みほした。
おなかがいっぱいになったので、翌日に。今度は兄も加わって、「エースコッ
クワンタンメン」を食べた。一同そろって、「うん、おいしい」。
「熊本ラーメン」は一人で食べた。味は甘くて、まろやかで、洗練された風味
や技術を彷彿とさせた。一人で口にする麺は、さすらいの旅のように、しっとり
とした静かな時の流れがスパイスとしてきいていた。
味覚の旅から帰った後、母、そして兄とも、まるで麺が湯の中でほぐされていくみたいに、うちとけていた。朝、母のつくるみそ汁をすすった時、これが故郷の味だったんだなあと気づいた。